汲み取り業者と埼玉県
調査の始まった1920年以来、一世紀に渡り一度も人口減に転じたことのない唯一の県、埼玉県
という訳で今回は、埼玉県の人口が現在の730万人に至るまでの過程で起きたある出来事について見ていきます
食べれば出る
すべての埼玉県民に関係のあるお話ですので、どうぞ最後までお付き合いくださいませ！
それでは初めに、埼玉県の人口が増加するきっかけとなった出来事に触れておきますね
先ずは関東大震災。比較的被害の少なかった浦和大宮の地盤の固さに注目が集まり転入者が増加。東京で被災した植木屋さんが
良い土だな
ここで一からやり直すか
大宮の土壌に惚れ移転、開いた場所が今の大宮盆栽村ですね
次に戦争です。本土空襲が激しくなると、東京から埼玉に疎開をする人が増え、東京大空襲など、帰る場所も頼る人も失い、そのまま県民になってしまうというケースがありました。戦争終結の昭和20年には、埼玉県の人口は200万人を突破します
100万人を突破するのが明治18年なので、100万人増加するのに60年を要したことになりますね
高度成長期。東京・京浜工業地帯の過密化により埼玉に進出する工場が増え、それに伴い従業員も越してきます、住宅地の開発、団地等の建設が活発化しました。昭和34年の西本郷団地（大宮）、35年の上野台団地（上福岡）、37年の草加松原、南浦和団地、40年の武里団地（春日部）などが代表的なものですね
この後（昭和40年）埼玉県の人口は300万人を突破します。200万人突破が昭和20年でしたので増加のスピードは３倍
昭和30年代は、埼玉県が農業県から東京のベッドタウンへ転換していく過渡期の10年でもありましたので、今と同じですね。都内に出やすい県南地域に特に人が集中してしまいました
昭和35年、その人口爆増中の県南で問題が起きます
人件費、その他もろもろ資材の高騰などを理由に清掃業者、と言うと分かりにくいので「汲み取り業者」と呼ばせていただきますね。皆さんのお出しになられたうんちやおしっこを回収する汲み取り業者が、各市町村に対し値上げを要求、汲み取り業務が滞り始めました
汲み取り料金は、各市町村が指定業者を決めて委託をし、業者の要望も取り入れ条例で定めていましたのでちょいちょいと変更できるものではありません
なので、川口、浦和、大宮、与野、蕨、上尾、戸田の七市町は協定を結び、料金の値上げする際は統一料金にしようという約束を交わていました、が
蕨が陥落
続いて浦和が45円
あ、35円45円、この後もちょこちょこと数字が登場しますが内容は省きます。雰囲気で高えなどと受け取って下さいwww
浦和が単独で45円を提案していたことが発覚
七市町は調整不能の事態に陥り、県に基礎料金の斡旋「もう県に決めてもらおう」ということですね。要請することになりました
ちなみに埼玉県が直面していた急激な人口増加に起因する問題は、ざっと挙げるだけでも
地下水の汲み上げ過ぎによる地盤沈下
水不足
電力不足
光化学スモッグ
通勤ラッシュ
交通渋滞
交通死亡事故
住宅・学校等の不足
地価高騰による公共投資の非効率化
これくらいあります
肥料として農村に還元されていたうんちやおしっこも、化学肥料の普及と、畑地から宅地への転換、そして急激な人口増加によりその処理が困難になってきていましたので、こちらも水質汚染という大きな問題だったということですね
しかし昭和39年の秋でした
汲み取り業者が料金の改定を求め再び動き出します
県内156の県清掃事業協同組合は、９月25日の午前十時より
県内一斉無期限汲み取り拒否！
想像するだけで便意の萎縮する、恐るべき実力行使に入ります
39年の秋といえば
東京オリンピックですね
県内では、戸田、大宮、所沢、朝霞が競技会場として選ばれていましたので、穿った見方はしたくはありませんが、業者には「県は要求を拒否出来ない」というハラがあったのかもしれません。二週間後には世界中から何万人もの人が埼玉に押し寄せトイレを使う訳ですからね
協議は業者の幹部、県南五市の担当者、県の衛生部長らが参加し行われ、県南５市については
25％のアップ
という線で話がつきオリンピックは無事開催されることになりました
ところが！ 今度は昭和42年の夏、県南５市の汲み取り業者がまたまた値上げを要求、無期限ストライキに入ります
続いて、鴻巣、北本、吹上、菖蒲、川里の業者が自動車修理費の高騰などを理由に値上げを要求、市町村側がこれを拒否したため13000世帯の汲み取り業務がストップしてしまいました
昭和42年の夏といえば、埼玉県にとってはオリンピック以上に気合いの入っていた
埼玉国体夏季大会
県は再び調整に入り、浦和、与野、大宮については330円（与野は320円）を425円
29%アップの条件を提示
これを業者が受け入れたため県南地域のストは撤回されることになりました
続いて10月、今度は、川越、狭山、所沢などの業者がバキュームカーの増車などを訴え値上げを要求、各市町村から満足のできる回答が得られなかったため、こちらもストの決行となってしまいました
昭和42年の10月といえば
埼玉国体秋季大会
埼玉国体のメインは秋季なんですよね
そうですね
冬季夏季とあるのに、どうして秋季なんですか？
ああそれは、冬季は埼玉には雪山がないので会場が栃木青森だったり、夏季は埼玉には海がないので会場が茨城だったりしたからですね、って言わせないで下さいそんなことっ
ないないついでにもうひとつ。上尾市の県営しらこばと団地は、元々は国体に出場する選手並びに関係者のために作られた選手村でした
国体のためにわざわざ選手村を建設するのは埼玉県が初めてのケース、どうしてこんな立派な選手村が必要だったのですか
それはほらあれですよ、埼玉県には観光地がねえでしょう？ その関係で宿泊施設がまーーーったく足りなかったからなんですねって言わせんな！！
その秋季大会の開幕が一週間後に迫っていました
天皇皇后両陛下がお見えになるのだ、粗相は許されんぞ
上尾運動公園やサッカー場など、多くの体育施設を新設改修した。新大宮バイパス、大宮栗橋線もなんとか開会式に間に合った。金をかけすぎだ、多くの批判も頂戴したが、国体を迎えることで埼玉県の景色は一変した。なのにこのままではトイレだけが江戸時代のまま、いや江戸時代以下だ
批判と言えば他県の連中もずいぶん言っておったぞ。優秀な選手をみんな埼玉に引き抜かれたと
引き抜いたとは人聞きの悪い。埼玉県内の市役所など、ホワイトで働きやすい就職先を斡旋してやっただけだ
県教組も二度と国体には協力しないブーブー言っておったな
開会式の練習中に児童が100人、熱中症で倒れたことか
それもだが、練習の期間が長すぎて授業が滞っているそうな
圧倒的埼玉を全国に見せつけるのだ、しっかり練習をするのは当たり前だ
しかしもう２年やっておる
短いくらいだ
大変です！ 豊水橋の下にバキュームカー100台が集結、業者が決起大会を開いているそうですっ
埒が明かん、失礼する
川越、単独での交渉は許さんぞ
そんなことはせん
川越一市で何が出来ると言うのだ
まあ、何とかするさ
川越市は「臨時市会議」を開き速攻で
追加予算案を可決すると
バキュームカー７台の購入を決定
スト破りじゃねえか
川越のこの出方を見た業者側は態度を硬化。45業者約100名が川越市議会に押しかけ抗議をするという大きな騒ぎになってしまいました
両者の間にどのようなやり取りがあったのか、それは分かりませんが、恐らく
こんな感じでしょうね
商人の町、川越ならではの大胆な判断だったと思います
が、これは川越のブラフだったのではないか、という気もします
国体の開幕は一週間後に迫っています
バキュームカーを購入したと言っても軽自動車じゃあるまいし、一週間で納車をされるはずがありません。もし業者に
そうかい、じゃあこれで手切れだな
という態度に出られてしまえば、それこそ前代未聞の粗相、おしまいです
とは言え業者だっておまんまの食い上げ
結末は、このようになりました
それでは今一度話し合いの場を設けましょう。金額については皆様にご納得いただけるよう出来る限り最大限の配慮を致します
おう言ったな川越！
はい言いました。最大限の配慮を致します
そしてその話し合いの日程ですが
国体が何事もなく無事に閉会した後、１０月末日とします
時間がありません。何卒よろしくお願い致します…
とかく私たちは食べる方にばかり気持ちが行ってしまうのですが
出したものの行方について考えずに済む、というのはごく最近のことであり、もちろん当たり前ではないんですよね
特に埼玉は江戸東京に隣接していたということがあり、うんちエピソードには事欠きません
戸田奇病なんかもそうですね
うんちはまたいつか、テーマとして取り上げる日が来ると思います
